2018/07/02

【信仰書あれこれ】ルターの発展を知るための最良の一冊

徳善義和『世界の思想家(5)ルター』(1976年、平凡社)をとりあげます。「世界の思想家」全24巻の中の一冊。各巻とも、一人の思想家を第一人者が解説しています。このシリーズに含まれる他のキリスト教思想家は、アウグスチヌスパスカルキルケゴールです。

似たものとして、中央公論社『世界の名著』と講談社『人類の知的遺産』があります。前者は全66巻。キリスト教関係で巻が割り当てられているのは、アウグスチヌス、ルター、パスカル、キルケゴールと『世界の思想家』と同じです。ちなみに、「聖書」にも一巻分が割り当てられています。

『人類の知的遺産』は全80巻で、巻が割り当てられているキリスト教関係の知的遺産は、アウグスチヌス、トマス・アクィナスマイスター・エックハルト、ルター、イグナティウス・デ・ロヨラカルヴァン、パスカル、キルケゴール、バルト、と多彩です。イエス・キリストにも一巻分が与えられています。

本日とりあげる『世界の思想家(5)ルター』の特徴を少し紹介します。

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本書は徳善和義編となっていますが、関わっているのは徳善氏だけです。ルターの思想と生涯について徳善氏が書き、原典を紹介する部分では全体を大きく五つの章に分け、それをさらに三つから四つずつの節に区分したうえで、それらをさらに小さな節に切り分けます。そして、徳善氏が原典から選りすぐった訳文をそれらに割り当てるのです。

徳善氏はまえがきで次のように説明します。

  • ルターは巨大な神学者の一人である。一つの点に的を絞っても、そこにむかうのに幾通りもの接近の仕方があるように思う。昔から、それも特に今世紀初頭のルター・ルネッサンス以来、今に至るまで、ルター自身の本文に依りながら、ルター自身をして語らせ、ルターに即して語るというそれなりの努力をしている、夥しい数の研究が公にされている。(本書ⅰ~ⅱ)
  • B5版1000ページ以上の本100冊に収められたルター原典から抜粋して、ルターの思想の全貌を明らかにするのは至難のことである。……ここでは、……多岐にわたるものの中から、いくらか重要、主要と思われる著作を取り出して、それによって、彼の思想世界の一端に触れることができることを心がけた。そのために、彼の神学思想を体系的な配列、構造で提示することはしなかった。むしろ、……「いかに信じ、いかに生きるか」ということで、ルターの思想の展開のあとを辿ったつもりである。……章、節、小節の主題に応じて、それにかなう一、二の著作の抄訳、抜粋という形で全体を構成した。(ⅱ)
  • ある主題について、著作の背景を無視して、断片を集積してみるという試みが内外にこれまでないわけではないが、そのような辞典風の試みをここでは取らなかった。……ルターの発展のプロセスをあとづけることは大切だと思った。神学者ルターにとって、神について語ることは確かに特別な形で固有の関心だった。ここではそれを背景に押し込んでおいて、それを踏まえて、ルター自身が信仰者としていかに生きたかを浮き彫りにするということを、あえてやってみたのである。(ⅱ~ⅲ)
小さな節として取り上げられている項目では、次のようなものが興味深いです。
  • いつも初心/聖書の主要概念/人間的なものの根絶/神の約束への信頼/内的な教会、外的な教会/自由とその根拠/逆説的信仰/霊的連帯/アウグスチヌスに対する評価/地上に生きるキリスト者
「フマニスムス(*森川注:ヒューマニズム)との関わり」という章の中の「キリスト教信仰の核心」という節は、次の四つの小節から構成されます。原典引用はすべて、以前にこの欄でご紹介した『奴隷的意志』からなされています。
  • 神の意志/人間の意志/奴隷的意志/人間の無力
なお、引用する訳文について著者は次のように断っています。
  • ルター著作の邦訳は比較的多い。古典の邦訳に当たっていつもそうであるように、ここでもすでにある多くの訳業を参考にし、踏まえながら、一応今回は全部にわたって新しく訳出してみた。(本書まえがきⅲ)
本書は、我が国におけるルター研究の第一人者が原典から細かく選び出し、自ら訳出して編み上げた貴重な作品であり、量的にも250頁とコンパクトです。原典とともにルターを知りたい人には最適な一冊でしょう。

JELA事務局長
森川 博己

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