重厚な作品の多い著者にしてはめずらしく、大変読みやすい本です。小学二年生の時に初めて教会に行った時の想い出や、その年のクリスマスに聞いた説教から受けた感動などが、生き生きと描写されています。著者は神学者・大学教授ですが、二十数年間の牧会経験もお持ちです。
以下、心に響いた箇所をいくつかご紹介します。
◇◆◇
まず、伝道の基本姿勢について。
「なぜマイナスがプラスになったのか、なぜ人間の朽ちるべき命が、死から生へと転換するのか、そのような実存的な経験、人生の喜びの経験が最初になければならない……それが伝道を論じることの出発点だ……救いの経験なき、伝道技術論やさまざまなスローガンは空虚なもの……聖書はまさにこの立ち直りの経験、新しい人生の開始、よみがえった人生の価値こそが伝道の始まりであり、力の源泉であったと語っている。」(本書20頁)
自らの反省も込めて、今日の日本の諸教会にはこんな問いかけをします。
「教会は伝道することにおいて、毎週の礼拝での説教において語るべきものを持っているのか……はっきりとそれを自覚しているのか、それを知っているのか、あるいは、語るべきことは知っていても、それに自信が持てないということはないだろうか……教会や説教が、新聞や雑誌の評論と同じような内容を、しかもそれよりも下手な言葉や方法で語って、それを伝道や信仰と言っていることはないか(中略)教会が自らの使命を十分に果たす実力をきちんと持っていることが大切なのです。」(本書31~32頁)
讃美歌93番の歌詞「み神の恵みを想いみれば、嬉しさあまりて、歌とぞなる/つもりにつもれる、み恵みをば、この世に、かの世に、歌い続けん」を引用しつつ著者は、「この救われた喜びを信仰のメロディーにして歌うことこそが伝道……神の恵みが、救いの御業が既にあって、礼拝の喜びがあって、神に祈ることのできる経験があって、その、『つもれる』恵みが、信仰のメロディーとなって必然的に流れだす……私たちの救いの経験に、まず立ち返らねばならないのです。」(本書36頁)と訴えます。
最後に、著者の神学校時代のエピソードが、ある意味で「伝道」の本質を示しているのでご紹介します。
先輩のアルバイトを一日だけ交代したときの話です。東京郊外で漬物を訪問販売するのです。自分なら買わないような高価な漬物だったとあります。訪問販売の経験のない著者には荷が重く、午前中にまわった家はどこも買ってくれなかったといいます。ランチの時にベテラン販売員に「一つも売れません」と嘆いたら、「そうだろうね」という返事。そこで「どうしたら売れますか?」と尋ねたところ、「この漬物、食べてみた?」と逆に聞かれます。食べてはいなかったのです。食べてみると確かにおいしい。値段が高いだけのことはあるのがわかりました。午後に違う家をまわってみたら、今度はいくつか売れたといいます。(本書33~34頁)
以上の経験から著者が学んだのは、紹介しようとするものに確信を、自信を持つ、ということの大切さです。
JELA事務局長
森川 博己
◆◇◆
【関連リンク】
日本福音ルーテル社団(JELA)ウェブサイト
日本福音ルーテル社団(JELA)ウェブサイト