著者の詩+絵(すべて、口に筆を加えて描いたもの)と日常を振り返った文章、小林恵さんの写真が何点か挿入された、きれいな本です。プレゼントに最適です。写真家・小林恵の名は『祈りの小経』(小島誠志著、2013年、日本キリスト教団出版局)で初めて知りました。素敵な写真が撮れる方です。
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書名「いのちよりも大切なもの」は、1986年に著者が作った次の詩のタイトルです。
- いのちが一番大切だと/思っていたころ/生きるのが/苦しかった/いのちより/大切なものが/あると知った日/生きるのが/嬉しかった
この詩について、著者は次のように述懐します。
- 「いのちより大切なものとは何ですか?」。1986年にこの詩を書いて以来、長年この質問を受けてきました。しかし、未曽有の大災害となった2011年3月11日の東日本大震災以降、この質問をされる方がほとんどいなくなりました。この災害で、本当に多くの方がいのちを亡くされました。昨日までそばにいた家族が、友人が、突然いなくなってしまったのです。いのちがいちばん大切だとしたら、健康で長く生きることだけが価値ある人生なのだとしたら、生きるのは、あまりにも悲しくて苦しい連続ではないでしょうか。(24~25頁)
- けがをしたのは6月17日。24歳の梅雨の頃でした。……9年という長い入院期間、「あれがなかったら俺の人生は違っていた」と何度も思いました。あの日、生徒たちの前で宙返りをしなければよかった、いや器械体操などしなければよかったのだ。大学の入試に落ちていればよかった、むしろ病弱であればよかった……。限りなく過去を遡っては後悔を繰り返していました。いっそのこと生まれなければよかった……。(中略)私が大けがをしたと聞いて、ある日、大学時代の先輩が駆けつけて来てきれました。そして後で、「ぼくにできることは、これしかありません」と聖書を届けてくれたのです。……ある日思い切って母に開いてもらうと、このことばに出会いました。「すべて、疲れた人、重荷を負っている人は、わたしのところに来なさい。わたしがあなたがたを休ませてあげます」<新約聖書/マタイの福音書11章28節>。(55~56頁)
- 確かに、けがをして大変な思いをしました。人にもずいぶん迷惑をかけました。でも、何も起きずに順調に生きている自分を想像すると恐ろしくなります。教師としても、人間としても、何も知ってはいなかったからです。死の淵をさまよい、障害ゆえにできなくなったこともたくさんあります。でも、いのちより大切なものに気づくことができた。けがをしたおかげで、この人生ほんの少し得をしたかな……。そう思っています。
著者の詩はいつも、手書き(口書き?)の詩と花の絵がセットなのですが、ここでは詩だけを何編かご紹介します。
- 冬があり夏があり/昼と夜があり/晴れた日と/雨の日があって/ひとつの花が/咲くように/悲しみも/苦しみもあって/私が私になってゆく(17頁「悲しみの意味」、花の絵=サフラン)
- 痛みを感じるのは/生きているから/悩みがあるのは/生きているから/傷つくのは/生きて/いるから/私は今/かなり生きているぞ(20頁「生きているから」、花の絵=イチヤクソウ)
- わたしは傷を持っている/でもその傷のところから/あなたのやさしさがしみてくる(47頁、無題、花の絵=れんぎょう)
JELA事務局長
森川 博己
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