2018/02/26

【信仰書あれこれ】「これは聖書のような本ですか?」

その日、羽田空港のレストランで天ざるを夢中で口に運んでいました。一服して目を上げると、向こう側に座っている客がみな、私を見ているではありませんか。妙だなあと、左隣りに目をやると、王貞治さんが天ぷらうどんをほおばっておられるのでした。20年近く前のことです。王さんを取り囲む数人の男性は、ダイエー・ホークスの選手だったのでしょう。
王貞治氏の直筆サイン

サインがほしいと思ったもののサイン帳の持ち合わせなどあるはずもなく、読んでいる本を手渡しました。王さんは例の特徴ある目で本を矯めつ眇めつ眺めながら「これは聖書のような本ですか?」とお尋ねになり、「ええ、まあ」と緊張気味に答える私に快く署名してくださいました。その本は、アウグスチヌス『告白』(山田晶訳、1968年、中央公論社『世界の名著』第14巻)です。

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『世界の名著』とそのペーパーバック版『中公バックス』は絶版のようですが、つい最近、中公文庫から三分冊の形で山田訳の『告白』が復活 しました。読みやすくて注釈が懇切丁寧な点に不朽の価値が認められたのでしょう。

教父 の中の教父、アウグスチヌスの経歴はリンクで確認していただくとして、この本を読んだことがなくても、次のふたつの言葉はご存知かもしれません。どちらも神学と哲学で頻繁に引用されるものです


  • あなた(=神)は私たちを、ご自身にむけてお造りになりました。ですから私たちの心は、あなたのうちに憩うまで、安らぎを得ることができないのです。(第1巻第1章)
  • いったい時間とは何でしょうか。誰も私に訊ねない時、私は知っています。訊ねられて説明しようと思うと、知らないのです。(第11巻14章)

王さんのサインのある中央公論社版は小さな文字で上下2段組み500頁弱とかなりの分量ですが、各巻のリード文と各章の見出しを眺めるだけでも、いろいろなことが読み取れます。冒頭と最終部分のそれを以下に記します。


1巻リード文 まず、神を呼び求めた後に、15歳に至る生涯の初めの時期を回顧する。幼年と少年時代の罪を認め、このころ、勉強より遊びや子どもじみた楽しみにふけったことを告白する。

<同巻1章見出し> 神を讃えようとする意志は神自身によって引き起こされる。

13巻リード文 まず、神の善は、ものの産出と完成とのうちに反映していること、三位一体 である神と聖霊 の固有性とは「創世記」巻頭の言葉 のうちに暗示されていることを示し、それから創造された世界の全歴史を、比喩的解釈により、神が教会において人間の聖化と栄光とのために働きたもうことのかたどりとして説明する。

<同巻最終章見出し> 神と人間とが被造物を見る見方は異なる。


時間のある時に、じっくり味わいたい一冊。それがアウグスチヌスの『告白』です。

JELA事務局長
森川 博己

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