2018/06/28

【信仰書あれこれ】アウグスチヌスの教え方

アウグスチヌス『教えの手ほどき』(熊谷賢二訳、1964年、創文社)をとりあげます。同社から出ている「キリスト教古典叢書」(上智大学神学部編、ペトロ・ネメシェギ責任編集)の一冊です。

本叢書は十五前後の作品で構成されています。アウグスチヌスとオリゲネスの著作が多く、前者が3冊(ポシデウスによる伝記を含めると4冊)、後者が6冊です。アウグスチヌスの恩師であるアンブロジウスの『秘跡』も含まれていて貴重な叢書です。

『教えの手ほどき』は紀元後400年頃に書かれた、アウグスチヌス41歳の時の作品で、彼はその時点で10年間、司教職にありました。本書は、ある助祭の求め応じ、キリスト信者になろうとして初めて教会を訪れた人々に、キリスト教信仰の手ほどきをどのように与えるのがよいかを示したものです。(本書1~2頁)

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本編は110頁と短いのですが、その前後に、責任編集者ネメシェギ氏による緒言(全12頁)と詳細な注(全33頁)が付いています。

本文の構成は、「本書を著した動機」「キリスト教について話すときの原則」「聴衆の学識に応じた話し方」「教理を教える人自身が喜びをもって教える方法」「初心者に聖書全体を語る具体例(長いもの)」「同左(短いもの)」となっています。
  • 目次そのものが中身を表わしているので、いくつかを以下に示します。(本書13~14)
  • いちばん重要なことは、教理を教える人が喜びの心を持って教えるには、どうすればよいかということです
  • 教理教授者は、救いの歴史を総括的に述べ、万事において愛をめざすようにしなければならない
  • キリストが来られたのは、神がどれほど人を愛しておられるかということを知らせるためでした。この愛の招きに応じましょう
  • 相手の話を契機として話を始めなければならない
  • 愛という目的をめざして、世界創造から現代にいたるまでの歴史について話さなければならない
  • (話している者自身に)倦怠感が起こる六つの原因と、それを取り除く方法
  • 聴衆の多様性に従って、話は変わってくる
こんな具合です。目次の大切さを教えられます。

本文には以下のような記述が出てきます。愛の教父、アウグスチヌスの面目躍如です。
  • いちばん重要なことは、教理を教える人が喜びの心を持って教えるにはどうすればよいかということです。その人の言葉は、その人の持つ喜びに比例して上手なものとなるからです。(25頁)
  • まず「はじめに神が天と地を創造された」<創世記1:1>と聖書に書かれている出来事から始めて、現代の教会までの歴史全体について初心者に教えるなら、そのとき話は完全なものとなります。……これらを総括的に全体的視野のもとにとらえ、聞く人に楽しみを与え、また歴史上特に重要な時代に起こった、注目すべき事柄だけを選び、話すようにしなければなりません。……我々は万事において、おきての終極目標である、「清い心と、よい良心と偽りのない信仰から生じる愛」<第一テモテ1:5>を目指さなければなりません。そして、我々の語るすべての言葉をそこへ向けなければなりません。……話して教えている人々の注意も、この愛の方へ向け、導かなければなりません。(26~27頁)
  • キリストがこの世に来られたのは、おもに、神がどれほど人を愛しておられるかということを人に知らせ、そして人に、自分を先に愛してくださった神への愛に燃え、神の命令と模範に従って隣人を愛さなければならないことを知らせるためでありました。神は、自分の隣人でなかった人間、自分から遠く離れ去っていた人間を愛することにより、その人間の隣人となられたのです。(中略)あなたは、この愛を自分の目的とし、あなたの話すすべてのことをこの愛に向けなさい。あなたは話すときにいつも、相手が聞いて信じ、信じて希望し、希望して愛するようになるよう話さなければなりません。(33~35頁)
本叢書で読めるアウグスチヌスの別の作品は『カトリック教会の道徳』と『主の山上のことば』です。どちらも興味深いです。

JELA事務局長
森川 博己

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