2018/10/22

【信仰書あれこれ】生けるキリストとの出会いの大切さ


金田福一著『召され行く友に *家庭霊想集6』(1992年、一粒社)をとりあげます。

本書は、著者が末期がんの病床で書きためた短い霊想を集めたものと、死の2年前に行った講演を収録したもので、著者の家庭霊想シリーズの最後の作品です。

以下では、「ルターに学ぶキリストの福音」と題された講演(1990年11月18日 キリスト教浦和集会にて)の一部をご紹介します。

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著者は複雑な家庭環境で育ち貧乏生活を体験しました。福音を伝えたい思いに強くとらわれはするものの、小学校卒の学歴ゆえ神学校に入れませんでした。体も弱く仕事を転々とし、ようやく伝道者として用いられるのは46歳になってからです。2012年2月にガンで天に召されますが、死を間近にした苦しみだけの病床でも、口をついて出るのは「主よ! 感謝します! アーメン!」だったと言います。

ルターと聖書だけが慰めの少年時代
  • 自分の幸いだけしか求めない人間は、自分に打ち克つことはできない、自分の弱さを引きずりながらでも、他に仕えようとして生きるならば、自分の罪も赦され、自分の罪も克服されてゆくのだ、そういうことを私は身をもって教えられました。そういう悩み多い少年の日に、ルターだけが慰めでした。文学も好きでした。音楽も好きでした。けれども私の心の底に一番深く慰めを与えてくれたものは、聖書とルターでした。……ルターは信仰義認ということだけがとりあげられていますけれども、その大前提となっていることは、キリストが復活した、キリストが生きておられる、生けるキリスト、ということです。(144~145頁)

私のところに来てくださったイエス
  • なぜ私を守ってくださらないのですかと、神様を恨んだことがどれだけあるかわかりません。しかしイエス様に近寄っては物騒、つかまっては大変だと思いました。そういう私のところに、イエス様は来てくださいました。来てくださったということは、罪があるまま、何の値打ちのないまま、何度となく裏切る、ユダは立ち返らなかったが、私は泣いて立ち返りました。そういう人間をひと言もお叱りにならないで、イエス様は受け容れてくださいました。(146頁)
  • イエス様に出会って、イエス様が来てくださって、愛の中に、贖いと罪の赦しの中に入れられて、罪は終わりましたか。いいえ、人間の罪は死ぬまで残ると私は思っています。特に愛の欠落は罪の根源です。しなければならないことをなし得ない罪、またいつの間にか傲慢になります。自己義認、自己満足、そういう罪は死ぬまで残ると思います。イエス様の愛と支配の中で罪認識は深化するのではないか、深められるのではないか、それが罪の潔めではないか、それがルターの考えであったと思います。(147頁)
  • 生けるキリストとの出会い、それはもうルターの信仰と思想の根底にある重大な問題です。キリストが生きておられる、そのキリストと会わなくてどうしますか。今日の日本のキリスト者にとって根本的な問題は、やはり生けるキリストとの出会い、そのことが教会において、集会において起こっているのか、もしその出会いが無いならば、その信仰は何なのでしょう。……その信仰は自力に過ぎないのです。生けるキリストに会わなければ、自己を義としてやまない、自我と主観の円周から脱出することができないからです。生けるキリストに出会わなければ、自己自身から解放されない、自由になれない、私はそのことを私の体験からあえて申し上げます。(157~158頁)

イエスに出会った後の状態
  • イエス様に出会いますと、イエス様は自我の円周の中に暮らしていた私たちを、その殻を破って引っ張り出してくださいます。それが新しき我、霊的な我、義とされた我であると思います。そしてそのように迎えられ抱かれた新しく生まれ出たキリスト者は、まだ残れる自分の罪、肉的な、まだ悪習慣の残っている自分、あるいは周囲の悪影響で逆戻りしようとしてやまない、そういう罪への可能性の残っている自分という者を、客観的に見ることが始まります。それが罪と義の同義体験です。それを言い換えますならば、自己の客観化であると言うことができます。さらに言い換えますと、神様が自分をご覧になる目で厳しく、まだ残っている自分の肉性、肉的な自分というものを批判し弾劾することができ、教えることができるのです。(149頁)
  • 神様の目をもって、まだ残っている自分を鋭く見ることができる、鋭く悔い改めさせることができるその厳しさ、己に対する厳しさ、それが謙遜なのです。(152頁)

「霊想集」の中に収められた数行ごとの霊想は、いずれも心にビンビン響く内容です。著者が書かれたものはいずれも、信仰的に大切な事柄を歯に衣着せぬ形で提示してくれる点で貴重です。

JELA事務局長
森川 博己

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