2018/04/09

【信仰書あれこれ】20世紀の宗教書ベストワン

米国のキリスト教月刊誌”Christianity Today ”が2000年代初頭に実施した調査によると、現代の宗教家・宗教思想家の著作で時代を超えて重要だと思えるもののベストワンは、C・S・ルイス『キリスト教の精髄』(柳生直行訳、新教出版社、原書名Mere Christianity) だそうです。

ベスト10については以下をご覧ください。ヘンリ・ナウエン の著作を数多く出版している「あめんどう」代表の小渕春夫さんがコメントしています。
20世紀の宗教書ベストテン → https://amendo.exblog.jp/2195684/

ちなみに、何年か前からネット配信のみで日本で情報提供している「クリスチャン・トゥディ」は、上記”Christianity Today”と名前が酷似していますが、無関係です。

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ナルニア国物語」 のC・S・ルイスはキリスト教護教家としても有名で、「ナルニア」自体がキリスト信仰を基礎に書かれた作品です。

『キリスト教の精髄』は、1942年にルイスがイギリスのラジオで一般向けに行った講演を本にしたものなので、大変読みやすいです。

ルイスは英国国教会 の信徒ですが、本書の立場について次のように断っています。
「英国国教会に行くべきか、それともメソジスト 、あるいは長老派 、あるいはローマ・カトリック教会 を選ぶべきかといった問題に関しては、本書から答えを期待することはできないだろう。答えが出ていないのは、私が意識的に出すまいとしているからであって……」(3頁)

この本は、ほとんどすべてのクリスチャンが共通に抱いてきた信仰の中味を説明し、弁護するために書かれています。高度に神学的な問題は扱われていません。そういう議論は未信者にとっては弊害しかないと著者が考えるからです。

本書を著すにあたってルイスが特に心配したのは、自分が書いたことが英国国教会に特有の、あるいはルイス独自の考えであって、キリスト教全体に共通したものとは言えないのではないか、という点でした。その危惧を払拭するために、彼は本書の第二部(クリスチャンが信じていること)の原稿を四人の聖職者(英国国教会、メソジスト、長老教会、ローマ・カトリック)に送り、批判を求めたと言います。メソジストの牧師は、信仰について説き方が不十分と言い、ローマ・カトリックの神父は、それほど重要でない贖罪説の紹介にやや深入りしすぎた感があると不満を述べたらしいのですが、その他の点では、書いてあることについて全員の意見が一致したそうです。

このように周到な配慮をしつつも、本書第四部「人格を超えたもの ― 三位一体 論序説」でルイスは、非常に突っ込んだ自説を展開します。その内容は、ルイス独自の思索と経験に裏打ちされたものですが、私は自分の信仰を理解する上で大いに助けになりました。

本書は、本来的なエキュメニズムに貢献するのではないかと私は思っています。次のような記述があるからです。
「分かれている宗派が、教義 においてはともかく、精神において本当に近づきうるのは、それぞれの中心、つまり、各宗派の生んだ真実の子らが住んでいるところにおいてなのであり、このことはまた、各宗派の中心に何かが、いや何者か(訳者注:キリスト)がおられて、そのお方が、あらゆる信仰上の相違、気質の違い、また、かつて互いに迫害したりされたりしたという嫌な思いなど、一切の妨害物を排して、同じ声で語っておられるのだ、ということを示しているように思われる」(9頁)

ルイスの提示する具体例が機知に富んでおり、柳生直行氏の読みやすい訳文と相俟って、本書に不朽の価値を与えています。自らの信仰を省み整理するために有益な一冊でしょう

JELA事務局長
森川 博己

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